『集団移転は未来への贈り物』(4)

さて我々は今、東日本大震災という現実に直面している。

これまで被災地を三度訪問した。

阪神・淡路大震災を経験した身であるが、

全く被災の性質が異なるということを直感的に理解した。

阪神のときは、自分の家がそこにあったという痕跡がその場所に残っていた。

今回はその手がかりが全くない。

阪神では、被災後すぐに自分の土地へ小屋をセルフビルドし、

これから再建するぞという意気込みを見せ、

地域を積極的に引っ張る人々に出会うことができた。

そのようなモチベーションが得られたのも、

その場所に痕跡が残されていたからだと思う。

我が家を失い避難所や仮設住宅で生活されている方々の話を聞き、

住まいが自分の自己存在認識にとっていかに大きな意味を持つのかを改めて考えさせられた。

 

気仙沼市小泉地区における住民発案の集団移転計画に携わることになった。

被災地の中には、震災前から既に過疎化が進んでいた地域も少なくない。

小泉地区もその一つである。

そのまちが丸ごと飲み込まれた。

直前の避難訓練が功を奏し人的被害は比較的小さかったが、

これから30年で減少する以上の人口を一瞬で失った。

 

 

2011716日(土)付北海道建設新聞より『集団移転は未来への贈り物』森傑氏>